2022/03/08 20:49

ここからずっと遠くの
もっともっと遠いところから また遠く
草原ふたつと小さな森ひとつと
大きな森ふたつ抜けた先に
大きな大きな湖があった。

湖面は夜の闇のなかで澄み渡り
波ひとつなく静まり返り
またたく星空や森の枝葉を
うりふたつに映しこむ。

静かな湖で白鳥が闇に包まれ
おぼろげに羽を休めていた。

夜の闇が薄らぎ朝のもやに包まれはじめるころ
湖面に映された風景がゆらゆらとさざ波たち
黒鳥が湖に降りてきた。


白鳥は夜の湖を好んであらわれ
暗い闇に白い姿を浮かべて
強くしなやかな翼を広げ
黒鳥は朝の森を好んであらわれ
朝もやに黒い姿を霞ませ
柔らかな羽毛のなかにまどろんだ。





やがて互いに長い首を持ち上げると
ゆっくり近づき共にちいさな弧を描くと
黒鳥と白鳥は背中合わせに寄り添い
祈るように遥か遠くを見つめた。

それは、変わらぬ時の流れの
静謐のなかだれにも気がつかれぬままに
森がうまれるずっと昔から繰り返されてきた
終わりと始まりの境のこと。

白鳥と黒鳥は寄り添う。



   



Season Story (2011-12a/w) Antique line